“FAI(Femoroacetabular impingement)”とは?
FAIは日本語で大腿骨寛骨臼インピンジメント(股関節インピンジメント)と言います。
FAIとは、Femoroacetabular impingement の略語で、股関節を動かしたときの股関節の大腿骨(太ももの骨)側と寛骨臼側(受け皿の骨)の骨と骨のぶつかりを意味します。
図のような大腿骨頭のでっぱり (Cam(カム)変形)は、遺伝が原因であったり、成長期に活発なスポーツを行っていたことが原因であったりと言われています。股関節を曲げたり、ひねったりする際に、このでっぱった骨と周囲の骨が何度もぶつかり合うと、その間に存在する股関節唇が傷つき、痛みが生じたり、不安定性(ぐらつき)が生じたりします。そして最終的には変形性股関節症(軟骨のすり減り)に至るというメカニズムがわかってきています。(*1、2)
重要なことは、この大腿骨頭のでっぱりは軽度な異常ですので、通常の単純X線撮影(レントゲン検査)では見逃す可能性があることです。
股関節が痛くて別の病院に行き、「異常なし」と言われた患者さんの中には、当院ではじめてDunn view(ダンビュー)といわれる特殊な撮影方法でのレントゲン検査で、FAIと診断がつくことがあります。(*3)
別の病院で「異常なし」と言われた患者さんの中には、以下の2つの理由でうまく診断されていない可能性があります。
- ① 検査不足でFAIや股関節唇損傷、軽い軟骨損傷などをみつけることができていない可能性
- ② 股関節の痛い原因が、機能障害(股関節のメンテナンス不良)である可能性
①:うまく診断されていない原因の1つに、FAIは2003年から提唱された比較的新しい概念であり(*1)、股関節を専門としていない整形外科医がそこまでFAIに造詣が深くないという点が考えられます。Dunn view(ダンビュー)といわれる方法(*3)で詳しくレントゲン検査を行ったり、詳しくMRI検査を行ったりすれば、正しい診断がつくことが多いです。
②:詳しく検査しても股関節の構造自体は壊れていないのですが、股関節のメンテナンス不良によって股関節の調子が悪く、痛みを生じることもあります。どなたにでも起こり得ることで、このメンテナンス不良になっている状態を見極めて、正しく治療することで、治る可能性が高いです。
お近くの整形外科で「異常なし」と言われたとしても、日常生活で困るほどの股関節痛がある場合は、是非股関節専門の外来を受診し、精密検査されることを強くお勧めします。
FAIへの治療方法
股関節唇損傷と同様に、まず保存療法(手術以外の方法)を実践します。 主にはリハビリ、股関節の中への注射、飲み薬です。FAIの大腿骨頭のでっぱり自体が自然に治ることは無いのですが、約80%の方は保存療法で痛みが改善します。
ただし、FAIの大腿骨頭のでっぱりが大きい人は、でっぱりが全くない人と比較すると、変形性股関節症(軟骨のすり減り)になる可能性が約10倍高いと言われています。(*2)
保存療法でよくならない場合は、一歩進んだ治療として手術(股関節鏡手術)を考えます。股関節鏡手術(股関節鏡視下手術)では、股関節の外側に小さい穴を2~3カ所作り、内視鏡を入れ、損傷した股関節唇を縫合し、かつ同時に大腿骨のでっぱりをけずる手術を行います。
- *参考文献
- 1. Ganz R, et al. Clin Orthop Relat Res 2003. Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip.
- 2. Agricola R, et al. Nat Rev Rheumatol 2013. Cam impingement of the hip: a risk factor for hip osteoarthritis..
- 3. Saito M, et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2017. Correlation of alpha angle between various radiographic projections and radial magnetic resonance imaging for cam deformity in femoral head-neck junction.