股関節鏡手術 (股関節鏡視下手術)について

股関節鏡の手術は、2,3か所に約5mmの小さな傷で股関節を治療できる新しい手術です。過去、関節の手術では大きな傷を必要とし、それゆえ入院期間も長く患者さんへの負担も大きなものでした。

手術風景

近年、関節を内視鏡を用いて行う手術(関節鏡視下手術)の技術が発展し、安全かつ短期入院でより高度な手術も股関節鏡で行えるようになりました。内視鏡(関節鏡、カメラ)を体内にいれてテレビモニターに拡大して映し出しながら治療を行うため、筋肉などの健常組織を傷めずに、損傷した部位をピンポイントで治すことが可能です。小さなカメラで関節の奥や内部まで観察し、正確な病態を確認することが可能で、損傷部位を修復したり、不要な骨のでっぱりや傷ついた組織を切除・除去したりすることが可能です。

小さな傷で身体に負担が少ないため手術後の機能回復に有利です。また、美容的観点からも手術後に残る傷跡は多くの場合、目立たない傷跡しか残りません。

当院での股関節外来の特徴

ただし、股関節鏡の手術は、股関節痛の全ての方に行うことができる手術ではなく、どのような方に手術をすれば良くなるかどうか、という見極めがとても大切です。軟骨のすり減りが強い方(変形性股関節症)や股関節の屋根が浅い方(寛骨臼形成不全)などはこの手術は向いておらず、せっかく股関節鏡手術を受けられても痛みが良くならない場合があります。

当院ではまず十分な保存加療(手術以外の方法)を行い、保存加療で良くならない患者さんに対しては、その状況に応じて一番良いと思われる手術、例えば股関節鏡手術、寛骨臼回転骨切り術、人工股関節手術などを患者さんに応じてご提案させていただきます。

股関節痛に悩むすべての患者さんが、それぞれが望む生活レベル・スポーツレベルに一日でも早く安全に復帰できるよう全力でサポートを行います。

当院での股関節鏡手術の特徴

最近では欧米で盛んにおこなわれている比較的新しい手術ですが、国内ではまだあまり普及していないのが実情です。

身体の負担が少なく回復が早い股関節鏡手術は、高度な技術が要求される手術であり、未熟な手術手技は成果が出なかったりさまざまな合併症の発生につながったりするといわれています。当院では、国内外で十分な経験と実績を積んだ、数少ない股関節鏡の専門医(日本股関節学会股関節鏡技術認定取得医)が手術を行っています(担当:齊藤医師)。

また、当院では股関節鏡手術方法にこだわりを持って行っております。

股関節は深部に位置しており、膝や肩、足関節などの他部位の関節鏡手術と比較して、関節鏡や手術器具の操作が難しい関節です。この操作性を向上させるために、股関節全体を取り囲む股関節包を一部切って(ポータル間切開)手術を行うことが一般的です。

ただ、近年の研究で、この股関節包を切る際に、関節包で最も大切な腸骨大腿靭帯も一部切ってしまう可能性が示唆されています。股関節の安定性は、股関節唇よりも腸骨大腿靭帯の影響が大きいといわれており、股関節唇を治療するために、最も大切な腸骨大腿靭帯を切ってしまっては本末転倒です。

当院ではそのような研究を踏まえ、股関節唇を縫い合わせるだけの単純な手術であれば関節包や腸骨大腿靭帯をほとんど切らずに手術を行っています。

また、どうしても関節包を一部切ることが必要な股関節インピンジメント(FAI)などの手術の際は、腸骨大腿靭帯を傷つけないように、関節包切開部位を工夫して最小限の関節包を切って手術を行い、最後に切った関節包を人工靭帯を用いて靴ひものように強固に縫い合わせております(シューレース法)。

当院では、患者さんお一人お一人の症状や状態にきめ細やかに対応した股関節鏡手術方法を選択します。また患者さんの全快に向け、術前後も医療スタッフ全員でサポートしてまいります。

治療の対象となる疾患名

股関節唇損傷大腿骨寛骨臼インピンジメント(股関節インピンジメント、FAI)、境界型寛骨臼形成不全(軽微な寛骨臼形成不全)、股関節遊離体、滑膜性骨軟骨腫症、股関節軟骨損傷、軽度な変形性股関節症、ペルテス病や骨頭すべり症後の変形遺残など

股関節鏡視下股関節唇形成術

傷んだり切れたりしている股関節唇を縫い合わせる股関節鏡による手術です(股関節鏡視下股関節唇形成術)。当院では可能な限り本来の股関節唇を残す手術を行います。ただし、股関節唇の傷みが強い場合は、状況に応じて太ももにある腸脛靭帯を用いて股関節唇と入れ替える手術(再建術)を行います。

大腿骨寛骨臼(股関節)インピンジメント(FAI)の股関節鏡手術

大腿骨頭のでっぱり(Cam(カム)変形)が原因で、出っ張った骨と周囲の骨がぶつかり合うと、その間に存在する股関節唇が傷んでしまい、痛みが出てきます。関節唇の損傷が繰り返されると、次第に軟骨も傷み、徐々に悪化して軟骨がすり減る変形性股関節症へと進んでしまうことがあるので、早期に治療を行うことが大切です。変形性股関節症にまで及んでしまった場合は、股関節鏡手術で痛みを取ることが難しく、人工股関節置換術が必要になってしまします。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)に対して股関節鏡手術を行うときは、損傷した関節唇を治すことに加えて、大腿骨頭のでっぱり(Cam(カム)変形)を削る治療が最も大切です。股関節唇損傷の原因である大腿骨頭のでっぱりを治療し、再び股関節唇損傷が起こらないようにして、変形性股関節症の進行を防ぐことが大きなポイントです。

股関節鏡手術の手術時間

股関節の中の治療方法によって時間は変わりますが、股関節唇を縫い合わせる手術(股関節唇縫合)、関節内の掃除(デブリドマン)などの単純な手術であれば1時間程度、股関節インピンジメント(FAI)や股関節唇の再建などの手術では2~3時間が目安です。ただし手術する前に麻酔をかけて手術を準備する時間と、手術終了後に麻酔が覚めるまでの時間などもあり、実際にお部屋に戻るまでには+1~2時間程度かかります。

股関節鏡手術の入院期間

単純な処置であれば約3日の入院で十分ですが、股関節唇の縫合などを行った場合は手術直後のリハビリテーションがとても重要であり、約1週間の入院をお勧めしています。

股関節鏡手術の麻酔方法

下肢を引っ張りながら手術を行いますので、十分な筋弛緩が必要で、基本的には全身麻酔で行います。

股関節鏡手術後のリハビリ

基本的に手術当日もしくは翌日、ベッドから車いすに移乗し松葉杖などを用いて歩行練習を開始します。従来は、約1か月程度の松葉杖歩行が必ず必要でしたが、当院では関節包切開を最小限にした術式を用いており、可及的速やかに正常な歩行と可動域の獲得を目指します。術後の痛みは個人差がありますので、可能な限り痛みが少ないように様々な方法でサポートしていきます。退院時には、杖なしで歩いて退院される方や、杖、松葉杖での退院となります。

股関節鏡手術退院後の生活

股関節鏡の手術後のリハビリテーションは手術と同じくらい重要です。退院後は外来での週1回程度のリハビリテーションを継続していただきます。来院しない日は御自宅でセルフリハビリテーションを行っていただくことが、完治の為にとても大切です。

股関節鏡手術後の通院頻度

基本的には1か月ごとに通院していただき、経過に応じて徐々に通院頻度を減らしていきます。調子のよいときでも、できるだけ半年から1年に1回は経過を拝見させていただければと思います。

スポーツへの復帰は術後3か月から

原則はやってはいけない動作(禁忌肢位)は設けず、痛みに応じて出来る限り早く正常な歩行と動かせる範囲(可動域)を広げること目指します。手術後に両脚に全体重をかけられるようになるまでには個人差があり、数日で歩ける人から1か月程度と様々です。リハビリテーションを行いながら、股関節の動かせる範囲が正常に戻り、徐々に筋力が回復し、術後3か月の時点で経過が良好であれば、ジョギングやスポーツ活動を徐々に再開していきます。

痛みが再発する場合は

股関節鏡手術のあと、一部の患者さんでは痛みが再発することもあります。関節唇が再び損傷したり、病気が進行して変形性股関節症が生じたりしている場合があります。

変形性股関節症を発症した場合について

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)や寛骨臼形成不全、股関節唇損傷は、変形性股関節症の原因となる可能性があることが分かっています。すでに軟骨の損傷がある程度存在するときは、変形性股関節症が進行してしまうことがあります。とくに40~50代、もしくはそれ以上に年齢が高い方や、肥満の方、より股関節の屋根が浅い方(寛骨臼形成不全)は、変形性股関節症のリスクが高くなります。その場合、股関節鏡視下手術を受けた患者さんでも、将来的には人工関節置換術が必要になることがあります。

当院は、変形性股関節症を発症した患者さんについても、責任をもって治療に対応していますので、気になることがあればお気軽にご相談ください。