よくあるご質問
1.人工膝関節手術は痛みがかなり強いと聞きましたが大丈夫でしょうか?
2.高齢ですが、人工膝関節手術を受けることはできるでしょうか?
3.両ひざとも痛みがあります。1日で両ひざの人工膝関節手術を受けることはできるでしょうか?
4.現在正座ができませんが、人工膝関節手術の後に正座ができるようになりますか?
1.人工膝関節手術は痛みがかなり強いと聞きましたが大丈夫でしょうか?
まず、手術中は麻酔が効いているので全く痛みはありませんのでご安心ください。手術が終わり、麻酔がさめた後の痛みが問題となります。
当院では痛みが少なくなるような手術方法の工夫に加えて、最新の痛み対策法である関節周囲多剤注射を行っています。当院の麻酔がさめた後の痛みは、従来の痛み対策で行われていた手術よりは少ないと断言できます。
特に、最も手術後の痛みが強い時間帯(麻酔が覚めた直後から翌日の朝)までの痛みは以前と比較して大幅に改善しています(参考文献1,2)
ただし、痛みの感じ方は個人差があり、まだまだ改善する余地が残っています。現在は関節周囲多剤注射の効果が切れた後の痛み対策に取り組み、より良い方法の研究を継続して行っています。
2.高齢ですが、人工膝関節手術を受けることはできるでしょうか?
変形性膝関節症の患者さんは一般的にお年を召された方が多く、人工膝関節手術を受けられる患者さんもご高齢の方が多いです。当院にて人工膝関節手術を行う患者さんの3人に1人は80歳代の患者さんです。当院にて片ひざの人工関節手術を行った80歳以上の患者さん190名(平均年齢83歳)と79歳以下の患者さん380名(平均年齢72歳)を比較したところ、手術後の輸血が必要になった割り合いや合併症を起こした割り合いは80歳以上の患者さんでも増えてはいませんでした(文献3)。
お年を召された患者さんはほぼ全員が何らかの持病を持っています。あまりにも重篤な持病の場合は手術を見送る場合もあります(腎不全の患者さんや、重篤な心臓疾患がある患者さんなど)が、まずは一度ご相談ください。
3.両ひざとも痛みがあります。1日で両ひざの人工膝関節手術を受けることはできるでしょうか?
当院で両ひざの人工関節手術を1日で行った324名の患者さんと、片ひざのみの手術を行った745名の患者さんを比較したところ、手術後の合併症の発生率には差はありませんでした(両ひざの同時手術でも合併症は増えていませんでした。)(文献4)。
しかしながら、両ひざの手術を1日で行う場合は、片ひざの手術のみを行う場合よりも全身への負担は間違いなく大きくなります。このため、ご高齢の方や持病のある方は原則としてまずは片ひざの手術を行い、数か月から1年ほど時間をあけてからもう片ひざの手術を行うように勧めています。
4.現在正座ができませんが、人工膝関節手術の後に正座ができるようになりますか?
残念ながら、人工膝関節の手術は痛みをとる効果には優れていますが、ひざの動き(可動域)については、正座ができるほどまで改善することはほとんどありません。手術の前に正座ができなかった方が、手術の後に正座ができるようになることはまずありません。これは、手術後のひざの可動域を左右する最も大きな要因が、手術そのものではなく手術前の可動域であるためです(文献5)。つまり、手術前からひざの動きが良い方は手術後もよい可動域が得られやすく、反対に、手術前にひざの動きが悪い方は、手術後も十分に動かないことが一般的です。ただし、手術前からひざの動きが大きく制限されていた場合には、手術によって動きが改善する方も多くいらっしゃいます。
一方で、高位脛骨骨切り術は、手術前に正座が可能ならば手術後も正座ができる患者さんが多い手術です。患者さんの病状や、希望にあわせて、適切な治療方法を提案していきますのでご安心ください。
5.人工膝関節手術には合併症は無いのでしょうか?
すべての医療行為には合併症のリスクがあります。人工膝関節手術にももちろん合併症のリスクはあり、日々このリスクを最小にするためスタッフ一同研鑽しています。
重要な合併症については『人工膝関節手術とは?』のページに記載させていただきました。特に感染(人工関節に細菌が感染すること)は重要な合併症であり、あらゆる対策を行ってもその発生はゼロになりません。
6.人工膝関節手術に輸血は必要ですか?
手術での出血が多い場合に輸血を行いますが、この出血には①手術中の出血、②手術後の出血があります。
手術中に出血することについてはよく理解できると思いますが、実は人工膝関節手術では手術が終わった後にひざの中で出血する量の方が多いのです。このため、当院ではこの手術後の出血を少なくする対策を行っています(文献6)。当院で片ひざの人工関節手術を行う患者さんで輸血を行った割り合いは0.5%(文献3)、両ひざを1日に人工関節手術を行う患者さんで輸血を行った割り合いは1~2%です(文献7)。種々の出血対策を行っていますが、現時点でも輸血が必要な患者さんは完全にゼロではありません。そのため、諸事情により輸血を受けられない患者さんは、安全のためにひざの人工関節手術を行うことは避けることをお勧めしています。
参考文献
1) Tsukada S, et al. Pain control after simultaneous bilateral total knee arthroplasty: a randomized controlled trial comparing periarticular injection and epidural analgesia. JBJS Am. 2015
2) Tsukada S, et al. Postoperative epidural analgesia compared with intraoperative periarticular injection for pain control following total knee arthroplasty under spinal anesthesia: a randomized controlled trial. JBJS Am. 2014
3) Tsukada S, et al. The requirement of allogeneic transfusion and risk of perioperative systemic complications in elderly patients undergoing total knee arthroplasty with contemporary blood conservation strategies. J Orthop Sci. in press
4) Tsukada S, et al. Thrombotic events in patients underwent simultaneous bilateral total knee arthroplasty with modern perioperative blood management strategy. Arch Orthop Trauma Surg. 2025
5) Tsukada S, et al. Impact of soft tissue imbalance on knee flexion angle after posterior stabilized total knee arthroplasty. J Arthroplasty. 2017
6) Tsukada S, et al. Intraoperative intravenous and intra-articular plus postoperative intravenous tranexamic acid in total knee arthroplasty: A placebo-controlled randomized controlled trial. JBJS Am 2020
7) Tsukada S, et al. Predeposited autologous blood transfusion in single-anesthetic bilateral total knee arthroplasty with modern blood conservation strategy. JBJS Open Access 2023
